「ホラー映画を観ようか」
それは突然の誘いだったにも関わらず、ナマエちゃんは弱々しく頷いてくれた。その表情からは、不安とか困惑とか、そういったプラスではない感情が見て取れる。ああ、きれいだ。
ナマエちゃんの部屋に置かれているプレイヤーにディスクをセットして、二人で並んでソファに座る。もちろん電気は消している。ぼくはこの場所が、ナマエちゃんの家の中でも一番好きだ。このソファのナマエちゃんの隣は、ぼくだけの特等席だから。
横目にナマエちゃんを見ると、彼女はすでに、テレビ画面に釘づけだった。ぼくの視線は、クッションを抱きながら怯えるように映画を観ている、ナマエちゃんに釘づけだというのに。
「大丈夫かい?」
「だ、大丈夫、です」
「本当に?」
そっとナマエちゃんの背中に触れると、彼女はびくりと身体を強張らせた。ほら、やはり大丈夫じゃないのだろう。ぼくは知っているのだよ。
ガシャン! ――と、大きな音が響いて、ナマエちゃんはさらに身を縮こませた。
「ひっ……!」
本当は、ホラー映画、大がつくほど苦手なくせに、むりしちゃってさ。まぁ、そんな強情な彼女が可愛くて、ぼくは好きなのだけれど。
今度は女性の甲高い悲鳴がナマエちゃんを怯えさせた。
「ひいぃ! も、もうイヤっ……!」
ホラー映画特有の演出が目立つたびに、ナマエちゃんはクッションをきつく抱きしめる。
いいなぁ、クッションは。今だけでもクッションになれたなら、なんてこと、ぼくは人生で初めて思った。
「ナマエちゃん」
「ひっ――!? ま、マツバさん……」
ぼくはナマエちゃんの腰を抱き、ぐいと自分の方に引き寄せた。女の子の身体は、やはりぼくみたいな男のものと違って柔らかい。
――もういっそのこと、ナマエちゃんをぼくのクッションにしてしまおうかな。
困惑したようにぼくを見つめるナマエちゃんの額に一つ口づけを落とし、ぼくは彼女を腕の中にうずめた。
――という、夢を見た。
「ナマエちゃん、ホラー映画を観ようか」
「イヤですよ。わたしがホラー苦手なの、マツバさん知ってますよね」
2015-04-25 BACK