きみがいれば、それだけで

「マツバさん、天の川が見えますよ」
ナマエが指差した方向を見遣ると、ああ、確かにあった。星屑が集まってできた、ゆるやかで、見渡す限りに延びる曲線。彦星と織り姫の間で輝いている、美しくも残酷な夜空の川だ。
「天気予報は曇りだったのに……」
「見れて嬉しくないのかい?」
「違いますよ。感動してるんです」
視線を天の川からナマエに移すと、タイミング良く彼女もこちらを向いた。しばらく何もせずに彼女の澄んだ瞳を見つめていれば、彼女は照れたのか視線を泳がせ、はにかむ。頬がほんのりと染まっているのは、暗闇の中でもわかった。
「あんまり見られると恥ずかしいです」
「ナマエがかわいかったからつい、ね」
そう言って頭を撫でると、ナマエは気持ちよさそうに目を閉じる。僕は手を彼女の頬に移し、更にそこからラインをなぞるように顎へと移した。親指で少し上を向かせて、そっと顔を近付ける。唇と唇が触れ合うだけの軽いキスを交わして、すぐに顔を離した。
「今のキス、なんだかちょっとキザでした」
「そう? きっと七夕だからだ」
「ふふ……彦星と織り姫に悪いですね」
「じゃあ、いっそ見せつけよう」
ナマエは手を伸ばして、僕の後頭部をそっと優しく撫でる。母親のような懐かしさを感じさせるその手つきは、僕の心に安らぎを与えた。無性に彼女を愛しく感じて、離れていた顔の距離をもう一度埋めると、ナマエはくすくすと笑った。
「意地悪ですね、マツバさんは」
「冗談だよ。でも、君を離したくないな」
「わたしも、離れたくないです」
再度キスを交わす僕たちは、相変わらず夜の闇に包まれている。頭の上の、とある二つの星が強く瞬いたのには、誰も気が付かなかった。

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