恋人未満家族同然

複雑な機械音に包まれる昼下がり。熱の篭った部屋が、夏の本格的な始まりを感じさせた。
不意に機械をいじる背中を見遣ると、タイミングよくこちらを振り向いた。額を伝う汗を洋服の袖で拭うと、彼、マサキさんは口を開いた。
「毎日毎日ボックスと転送システムの管理に追われとるからすっかり忘れとったけど、今日は七夕やな」
「ああ……そういえば、そうでしたね」
「せっかくやし、今日は早めに切り上げてゆっくりしよか」
マサキさんが七夕を理由に作業を早く終わらせるなんて、珍しい。それ以前に、普段ならどんなイベントも、自分の誕生日でさえも忘れている彼が七夕を覚えていたのに驚いた。
「いいんですか?」
「ええよ。はよ終わらして、笹準備して、短冊に願いごと書こ」
「……そうですね、楽しそうです」
「よっしゃ! ほな、もうちょい頑張ろか」
わたしに小さくガッツポーズをして、マサキさんは再び機械と向かい合った。わたしもわたしで早々に仕事を切り上げるべく、ダラダラとやっていたシステムの点検作業に集中して取り組むことにした。わたしはマサキさんの助手だから、これくらいの作業は一時間程で終わらせることができなければいけない。非常に目の疲れる作業ではあるけれど、マサキさんのためにも弱音なんて吐いていられない。

「よし……終わりました、マサキさん」
「おう、お疲れさん」
時計を見ると、きっかり一時間経っていた。マサキさんの方は既に作業を終えていたようで、いつの間にか笹の準備に取り掛かっている。笹をバランスよく固定するのに多少手こずっているようだった。
「手伝います」
「あー助かるわ。おおきに」
わたしが笹を押さえつけて、マサキさんが固定する。こうして決して広くはない部屋の一角に、決して大きくはない笹が置かれた。マサキさんは、今度は机の中をごそごそと漁り始めた。忙しい人だな、そう思いながらマサキさんを見ていると、彼は机の中から見つけ出した画用紙をハサミで切る作業に入った。チョキチョキと音がする度に、画用紙が床に落ちていく。
「よっしゃ。これで準備オーケーやな」
「マサキさん、それなんですか?」
「これは……あー……短冊の変わりや」
マサキさんの手には、長方形に切られたオフホワイトの画用紙が二枚と、黒いボールペンが二本。安上がりな気がしないでもないけれど、それがマサキさんらしくてなんだか可愛かった。
「こういうんは気持ちや、気持ち!」
「ふふ……そうですね」
「さぁて、なに願おかなー」
真面目な表情で短冊もどきの画用紙と向き合うマサキさんの横で、わたしはあらかじめ決めていた願い事をサラサラと書いた。
「ナマエのちょお見して」
「ダメです」
「うっわ、ケチくさー」
「なんとでも言ってくださいよ」
可愛くない、とぼやくマサキさんを無視して、わたしは願い事を笹に吊した。それと同時に、マサキさんがわたしの隣に来て自分のを吊す。
「さ、星が出るまでゆっくりしとき」
「はい。……マサキさん」
「ん?」
「ありがとうございます」
「? おう」
それから星が出るまでは、二人で他愛ない話をしたり、お茶を飲んだり、普段はあまりしないようなことをして過ごした。
わたしはマサキさんの恋人じゃなく、ただの助手だ。けれどわたしは、わたしとマサキさんの間に仕事仲間以上の絆があると信じている。これからもずっと、この絆は変わらないであってほしい。これがわたしの願いだった。

“一生マサキさんの助手でいられますように”
“ナマエが一生そばにいてくれますように”

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