鬼道

途切れた想い

わたし、知ってるんだよ。
『どうした、急に電話なんてして』
「ちょっと話があるの」
あなたはわたしのことが好きで、わたしもあなたのことが好きだよ。大好き。
『話って、なんだ?』
「あのさ…わたしね」
でもね。大好きだから、あなたの負担にはなりたくないの。それって彼女なら当然考えることだと思う。
「飽きちゃった」
『飽きた?何にだ?』
あなたは優しい。わたしはあなたの優しさにつけ込むような真似だけはしたくない。
「有人と付き合ってるのに」
『……そうか…』
ほらね。何も聞いてこないでしょ。
「だから、別れよう」
『…わかった』
直接会って伝えない、弱虫なわたしをどうか許してね。
「…っ……今まで、ありがとう」
『あぁ。これからも元気で、な』
泣いてしまいそう。
『名前、最後に一つ』
「な、なに?」
本心は悟られたくないから。
『俺は…俺はまだ名前が、』
「さよなら、有人」
最後に一言、最低だと言ってほしかった。

途切れた想い

一回くらい、ケンカしたかったな


心の荷物を投げ出して

ねぇちょっと聞いてよ!父さんと母さんったらひどいの!わたし最近ちょっと勉強上手くいってなくてね、この間の小テストで凡ミスいっぱいしちゃったの。でね、返ってきたテストを両親に見せたの。あの二人なんて言ったと思う?こんな能無しを娘に持った覚えはない、だって!ひどいと思わない!?で、わたしも娘の気持ちも考えてくれない父さんと母さんが嫌になったの。わたしは父さんと母さんにとって今までなんだったの?わたしはいい成績を残すだけのお利口さん?いいえ違うわ!わたしは名前!名字なんてあの家のお利口さんだっていう印だから要らない!わたしは今日からただの名前として生きていくの!でもやっぱりこの歳じゃまだ一人で生きていくのは難しいと思うの。だから誰かに少しの間お世話になりたいなー、なんて。
「…で、うちに来たと」
「えへ」
「はぁ…」
俺は溜め息をつくことしかできなかった。可哀相だとはあまり思わない。だからといって苗字が全て悪いのかというと、苗字の両親には悪いがそれは違うと思う。
「そもそもどうして、俺の家に来たんだ?普通はこういう時異性の、しかもつき合ってるわけでもない男の家には来ないと思うが…」
「春夏秋みんなダメだった」
「ちゃんと名前を言え」
「で、鬼道家は心も家も広いから泊めてくれるかなーと思って」
もしここがダメだったらどうするつもりだったんだ、こいつは。ちなみに俺の親からは了承を得たらしい。こいつはなぜか俺の親に気に入られている。不思議なやつだ。
「お前はいつも後先を考えないで行動しすぎだ。お前の気持ちはわからなくはないが…もう少し我慢というものを覚えろ」
「……」
「聞いてるのか?苗字」
「……」
「おい苗字…って」
気がつくと、苗字はソファに座ったまま寝ていた。こいつは本当に不思議だ。どうしてこうも自由なんだ。
「まったく…風邪引くぞ」
「…ん……」
「!…っと」
起こそうと思って肩に触れると、苗字の身体が横に倒れそうになった。慌てて支えるとなんとか倒れずに済んだ。
「…!」
支えた瞬間に、自然にお互いの顔が近くなった。その時に見た苗字の目が、少し赤く腫れていた。泣いた、のか。
「本当はすごく…縛られていたんだな」
いつも自由なやつだとばかり思っていたが、それはどうやら間違いだったらしい。本当はずっと重いものを背負っていたんだ。計り知れない期待とプレッシャーを。
「本当に、手間のかかるやつだ」
呆れたように笑って、苗字を抱えてベッドまで運ぶ。意外と軽くて少し驚いた。そういえば、苗字という名字は要らないと言っていた。ただの名前だと。
「ゆっくり休め、名前」
今日の寝床はソファだ。

心の荷物を投げ出して

本当の自由を、探そうか

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