台風の日の恋模様/佐久間
あぁもう、なんてこと。どうしてわたしは今日に限って着替えを持ってこなかったの。いつも持って来て結局着ないから油断してた。お母さんの言う通りにしておけばよかった。
「しかも学校休みになったとか…」
来てから知った。教室には誰もいない。ただ黒板に先生からのメッセージが書かれている。
今日は台風のため休校になりました。連絡網を回しましたが、届く前に登校してしまった生徒はそのまま下校して下さい。
なんだって。あの雨と風の中を再び歩けと言うのか。嫌がらせにもほどがある。
「てかなんで自分台風の時点で気づかなかったの!普通に考えて今日ないじゃん!」
「あー……苗字?大丈夫か?」
自己嫌悪に浸っていると、後ろから呼びかけられた。振り返ると、そこにはクラスメイトの佐久間がいた。佐久間も連絡網が回る前に登校してしまったのか、雨のせいで濡れていた。
「佐久間…いつからそこに?」
「さっき来た。今日って…」
「休み、みたいだね」
二人で落胆。ここまで歩いて来たわたし達の努力はなんだったんだ。わたしに至っては傘の使い方下手なのか全身びしょびしょだし。早く帰りたいけど、あの台風の中をもう一度引き返すかと思うと気が滅入る。外に出ても仕方ないので、わたしは教室で台風が少しでも弱まるのを待つことにして、自分の席についた。
「苗字、帰らないのか?」
「とりあえずちょっと弱くなるまで待つ」
「ふーん…じゃあ俺も一緒に待つ」
「どうぞご自由に」
佐久間はわたしの隣の席に座った。わたしは態度には決して出さないけれど、実は佐久間のことが好きだ。どこがと聞かれたら全部としか答えられないくらい好き。だから、薄暗い教室に二人きり、しかも隣にいるというこの現状には胸が高鳴る。聞こえてない、よね?
「はは」
佐久間が笑った。わたし、何かおかしかったんだろうか。
「どしたの」
「苗字びしょ濡れだなーと思って。どんな傘の使い方したらここまで濡れるんだよ」
「ふ、普通に頭上に掲げてただけだしっ」
やっぱりわたしがおかしかったみたいだ。なんかすごい恥ずかしい。
「着替えないのか?女子って濡れたままなの嫌がると思ってたけど」
「着替えの服、持ってない」
「俺も。悪い、何も貸してやれなくて」
佐久間は申し訳なさそうに言った。か、か、可愛い…可愛いよ佐久間!そして紳士だなぁ。
「別にいいよ。ありがとう」
「風邪引くなよ。寒くないか?」
「大丈…わっ、あああ!大丈夫だって!」
「俺が寒いから、こうさせてくれ」
抱きしめられた。あれか、人肌で温め合うってやつですか…いや、いやらしい意味とかじゃなくて!あああなんかこれもう告白してもいいのかな!いいよね当たって砕けろだ!いや砕けるのはやだけども!とりあえず落ち着けわたし!
「佐久間!」
「ん?」
「す、すすす」
「好きだ、苗字」
「そそそ、そうそう好きだよ佐久間…って、えええ!?」
「両想い、だったんだな」
魚みたいに口をぱくぱくさせるわたしにお構いなしに、佐久間は嬉しそうな笑顔。
「帰ろう、名前」
「う……うん!」
比較的弱まった雨の中、手を繋いで下校。今回ばかりは台風のお陰と言っても過言じゃない…のかな。
台風の日の恋模様
急接近にご注意下さい
控えめに繋がれた手/源田
好きな人いる?
担当教師が休みだとかで自習の時間。机の上に小さなメモが置かれた。それは隣の席の苗字からだった。
いない
俺は三文字だけ書いて、メモを苗字の机の上に置いた。実は、いないなんて嘘だ。本当は苗字のことがずっと前から好きだ。だから隣の席になれた時は柄にもなくすごく喜んだ。それにしても、あんな質問をされると少し期待してしまう。
わたしのことどう思う
「!?」
再び机に置かれたメモに書かれていた大胆な質問に驚いて苗字の方を向くと、彼女は一心に自習していた。頬は少しだけ染まっていた。
(おい苗字、これってどういう…)
(いいから答え書いて!)
小声でのやり取り。苗字の顔はみるみる赤くなっていき、ついにそっぽを向かれてしまった。俺は意を決してメモにシャーペンを走らせ、書き終えると苗字の机の上にメモをそっと置いた。メモを読んだ時の苗字の顔はリンゴみたいに赤くなっていて、思わず笑ってしまった。返事はメモには書かれない。自習中だってこと、苗字はきっと忘れてるんだろう。
控えめに繋がれた手
小さな手を、守りたいと思った
大切にしたいんだ/士郎
えーと、まず落ち着こう。はい深呼吸。すーはーすーはー、うん。そしたら次は現状とその成り行きを整理しよう。確かわたしはちょっと早めに部室に来てしまって、ストーブの前で暖をとっていた。そしたら吹雪くんが来て、肩を並べて暖をとることになった。で、さっき押し倒されたと。うん。
「成り行きがない!!」
「あ?」
めちゃくちゃ突然のことだったんだね!今理解できたよ!ところでなぜわたし押し倒された?
「あ、あのー」
「…ったく、兄貴のやつ何躊躇ってんだよ」
「え?」
お兄さんいたの…?そう聞こうと思ったけど今の吹雪くんは目つきが鋭くて聞くに聞けなかった。まるで吹雪くんじゃないみたい。
「おい、名前」
「ははははいいい」
「お前を今から俺の……やめろアツヤ!」
「アツヤ!?どなた!?」
突然大声でアツヤという人物の名前を叫んだ吹雪くんに驚いて彼を凝視したら、いつの間にか優しい目つきに戻っていた。そして気がついたら思いきり抱きしめられていた。
「ご、ごめん…ごめん、ね……!」
「とと、とりあえず未遂だからききき気にしないで!わたしは大丈夫だから!」
「怖かったよね…ほ、ほんと、ごめん…!」
必死に謝り続ける吹雪くんは震えていて、すごく弱々しかった。そっと抱きしめ返すと、一瞬身体を強張らせた後、安心したように震えがおさまっていった。
「大丈夫、大丈夫。吹雪くんだから怖くないよ」
「名前、ちゃん……僕はき、」
「ひゅーひゅー!!」
「!」
突然聞こえた声に驚いて扉の方を向くと、そこにはにやにやした他のメンバーがいた。やばい見られてたのか…とてつもなく恥ずかしい。
「み、みんな!これは違っ…!」
「照れない照れない!」
必死に誤解を解こうとする吹雪くんを見て少し寂しく思った。身体中が熱いのはきっとストーブの前に長い間いたからだ。そういえば、吹雪くんは何を言いかけたんだろう?
大切にしたいんだ
その優しさが大好きなの