その他

あなたは厚着で涼しそう/ゲン

「あっつーい!」
「それは私も同じだよ」
ゲンさんはそう言いながらも、ちっとも汗をかいてない。
どうしてわたしより厚着してるのに、わたしより涼しそうなんだろう。
「ゲンさんって、もしかしてお化け?」
「……何を言ってるんだい?」
「なんにも感じてなさそう」
「そんなことないよ。私は生きてる」
そう言って笑うゲンさんの顔は、やっぱり涼しそうな笑顔だった。
「キッサキ行きたいー」
「君は本当に唐突だね、話の切り替わりが目まぐるしいよ」
「暑すぎます、ゲンさんが」
「私が?」
わたしがゲンさんを指さすと、ゲンさんはきょとんとしていた。
あ、意外と可愛い。
「そんな厚着、見てるだけで暑いです」
「そう言われても…」
困り顔のゲンさん。
見るのは、もう何回目だろう。

あなたは厚着で涼しそう

「脱いで下さい」
「えぇ!?」


泣いて、泣いて、/バク

「もう!信じられない!」
「また兄貴とケンカしたの?」
ナマエは兄貴の彼女だ。
でも俺はナマエが好き。
よくないことだって、わかってる。
「聞いてよバク!」
「どーぞ」
ナマエは兄貴とケンカすると、必ずと言っていいほど俺の所へ来る。
そしてありったけの愚痴を吐く。
「……でね、それでわたしが………」
「うんうん」
「もう、オーバは本当に……っ、でね」
「ナマエ…?」
ナマエの声が震えた気がした。
横にいるナマエの顔を確認すると、案の定水滴が目からポロポロ。
泣いていた。
「…オー、バのバカ……!」
「なぁナマエー」
「な、に…」
「俺の兄貴さ、確かにバカでアフロだけど…でもナマエのこと本気で好きなんだ。だから、その…嫌いにならないでくれよな」
二人の気持ちを繋ぎ止めるのも、俺の役目。
ナマエがもう俺に愚痴言いに来なくなるのが嫌だから、辛くても必死なんだ。
「バク…ありがとう」
「ん」
「わたし、オーバとちゃんと話してみる」
「……ん」
にっこりと笑うナマエ。
その笑顔が見たいから、俺は。

泣いて、泣いて、

最後に笑ってくれたら、それでいい。


ラブについては考えたくない/グリーン

「ラブについて考えてみた」
「挨拶くらいしろ」
どうしてこいつはいつもこうなんだろう。突然うちに来て、軽い挨拶もなくいきなり本題に入ろうとする。行儀がなってないにも程がある。
「こんちは。でさ、」
「普通お邪魔しますだろ」
「細かい男だなぁ…」
やれやれと呆れたように息をついたこいつは本当に腹立たしい。というか、さすがにここまで行儀が悪いと逆に心配になる。
「細かい男はモテないよ」
「お前こそ嫁に行けねーぞ」
「別にいいもん」
他人、しかも男の部屋なのに、こいつは俺のベッドにダイブした。そして仰向けになりながら、チラリと俺を見て口を開いた。
「グリーンがもら「断る」…ひどっ」
少しだけ速くなった鼓動を無視したくて、こいつに教える行儀について考えることにした。

ラブについては考えたくない

なんか、ダッセェ


温もりは熱に変わる/レッド

雪が降り続く山の頂上で、寒いですねと横にいるレッドさんに声をかけた。彼は無言のまま静かに手を差し出してきた。握れということなのだろうか。疑問に思ってレッドさんの顔を見るけど彼は相変わらず無表情のままで、こちらを見ない。仕方がないので、恐る恐る握ってみると案外すんなり握り返してくれた。
「………」
「………」
お互い無言のままただ手を繋いでいる。それだけのこの状況が、なんだか心地好い。ほうっと息を吐くと、息は白い湯気になって、空気中に消えた。
「寒いですね」
「………」
再度同じことを言うと、レッドさんは何も言わずに握る手に力を込めた。でもやっぱり温まるのは繋いでいる片手だけ。
「こうすれば、あったまりますよ」
「!」
レッドさんに身を寄せる。彼は突然のことに驚いたのか、身体をびくつかせた。それでもやっぱりレッドさんは落ち着いている。すぐにわたしの手を離して肩を抱いてくれた。
「レッドさん、あったかいです」
「…ん」
「レッドさんは寒そうですね」
「大丈夫」
見ると、レッドさんは鼻の頭が少し赤くなってる。大丈夫なんて嘘らしい。本当は少しでも寒いくせに。
「やっぱり、寒そうですよ。ホントは寒いですよね」
「……まぁ、少しは」
やっぱりね。にっこりとレッドさんに笑いかけて、正面を見た。相変わらず雪は降り続いていて、上から下へと、わたしの視界に入ってきては出ていく。
「ねぇ」
不意に声をかけられ、はいと顔を向ければ急に雪が見えなくなった。その代わりに見えたのは閉じられた瞳、男性にしては白い肌、そして綺麗な黒髪だった。
「え、レッドさ…?」
「…これで少しは、あったまった」
帽子を深く被るレッドさん、赤いのは鼻の頭だけじゃなかった。わたしも顔が熱を帯びるのを感じる。寒いからちょうどいい、と思っておこう。

温もりは熱に変わる

少しなんてもんじゃない


ドライリップは鉄の味/ユウキ

「いたっ」
「…またやってんの?」
「だって…気になるんだもん」
ナマエは最近、口元をよく弄っている。何をしているのかと問うと、唇が乾燥してて皮が気になるから剥いてると言っていた。リップでも塗ればいいのにと思って提案したけれど、彼女はどうもリップのベタつきが苦手らしい。すぐに却下されてしまった。
「血、出てる」
「知ってる…うぇ……」
「どうした?」
「鉄の味がして気持ち悪い…」
ナマエは舌でペロリと自分の唇を舐めた。けれど少量の血が見えなくなったのは一瞬だけで、すぐにまた同じところが赤く染まった。
「ティッシュでも当てとけよ」
「うんー…っ」
見てるこっちも何だか痛みを感じる。赤く染まるティッシュの一点を見て、ナマエは顔をしかめた。そして再度自分の唇を舐めて、一言。
「やっぱりマズイ」
そしてぐいっと俺に顔を近付けて、突然のことに驚いて反応できなかった俺の唇に自分のをくっつける。数秒して唇を離したナマエはまるで悪戯っ子みたいな笑顔だった。
「自分の口、舐めてみて」
俺は言われるがままに自分の唇を舐めた。そして少しだけしかめっ面な笑顔で言ってやった。
「まずい」

ドライリップは鉄の味

甘酸っぱいキスの味、なんて嘘だ


光のない理想郷を描く/N

視界の半分以上を占めているのは、苦しむようにわたしを見つめる彼の顔だった。背景には天井があって、彼は背中に光を受けている。ゆえに、わたしが見ている彼の正面顔は、逆光により影となっていて暗かった。
もう何分、いや何時間、彼とわたしはこうしているんだろう。それ以上の動きがあるわけでもなくただ無言で、しばらく前からずっと同じ体勢をしていた。
ずきり。彼が押さえる力を強めたのか、床と触れ合っている手首が少し痛んだ。
「痛いよ、N」
痛みを訴えると、彼は歪んだ表情のまま「だいきらいだ」と言った。
やっと言葉を発したかと思えば、嫌悪の念を述べられてしまった。わたしはどう反応すればいいのかわからなくて、彼の言葉を無視した。
「どいて」
「きらいだ」
彼は子供のように「きらい、だいきらい」何度も言い続けた。
こんなにわたしのことを嫌っているのに、彼はなぜこのままの体勢でいるのだろう。わたしだったら、嫌いな相手には近付こうとさえしないのに。
「N、」「でも」

「胸が、苦しい」
直後。わたしの手首を押さえ付けていた彼の右手が頬を撫でた。その手つきは腫れ物に触れるようで、眠くなりそうなほど優しかった。
突然のことに言葉を失うわたしを他所に、彼は続ける。
「君がきらいだ」

「でも考えてしまうんだ。君を」

「すると胸が温かくなって、でも痛くて」

「苦しいんだ。すごく」
苦しそうに歪んでいた彼の表情は、次第に切なくて寂しそうな表情へと変化した。今にも泣き出しそうなその表情は、すごく綺麗、だった。
「僕を苦しませる君がきらいだ」

「でもこの気持ちは」

「きっと、君が」「N」「…!」
わたしは自由になった片手の人差し指で、彼の唇に触れた。
最後まで聞かずに彼の言葉を遮った理由は、自分でもよくわからない。ただなんとなく、最後まで聞くのが怖かった。
彼は突然のことに驚いたのか、大きく目を見開いてわたしを凝視した。かと思うと、今までわたしの頬に添えていた手で、彼の唇に触れているわたしの手を退かした。
「わからないよ」
「何がわからないの」
「僕が、」
今日初めて成立した会話は、今までの話とはなんの脈絡もない、まるで意味のわからない会話だった。
「僕が、わからないよ…」
「…わたしには、わかるよ」
つまりあなたは。
いいえ、あなたも。

光のない理想郷を描く

(ただの人、なんだよ)

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