大人からの悪戯
魔法の言葉を知ってる?子供しか使えない言葉。それも、一年に一回だけの。
「トリックオアトリート!」
「やぁ、ナマエちゃん。いらっしゃい」
扉を開けてくれたマツバさんは、まるでわたしが来ることを知っていたようだった。もしかしたら、千里眼で見たのかもしれない。
「ちょっと待ってて。今お菓子を持ってくるから」
マツバさんの家にお邪魔するのは何気に初めてだ。いろんなジムリーダー達の家を回って来て、ハヤトさんに教えてもらった。ちなみにツクシくんの家には行ってない。彼はあまりわたしと歳が変わらないから。
「こんな物しかなかったけど、よかったら食べなよ」
「ありがとうございます!」
マツバさんが出してくれたのはようかんや砂糖菓子などの和菓子。それに加えてお茶も出してくれた。マツバさんらしいし、わざわざ用意してくれてたのが嬉しくて自然に頬が緩んだ。他のジムリーダーは留守だったり修行中であまり相手にしてくれなかったりしたから。だからわたしのために時間を作ってくれたと思うと嬉しかった。
「和みますねぇ…」
「お年寄りみたいだね」
くすくすと笑うマツバさんを見て、なんだか少し恥ずかしくなった。
「そういえば」
突然、マツバさんは思い出したようにわたしを見て言った。
「ゲンガーの衣装…可愛いね。すごく似合ってるよ」
「あ、ありがとうござい、ます」
「僕の手持ちにしたいな」
ちゅっ
「なんてね」
「な…!ま、マツバさ…!!」
マツバさんは悪戯っ子みたいな笑みを浮かべた。わたしの頬にはさっき触れたマツバさんの唇の温度がはっきりと残っていた。
大人からの悪戯
今度はこっちの番!
一瞬の愛情表現を、二回
※学パロ
「キス、してもいいかい?」
真面目な顔で彼は言った。彼の瞳は、わたしのそれを真っ直ぐに見つめている。
「どうしたの」
わたしの頭にはこの言葉以外浮かばなかった。彼は突然キスしていいかなんて問うような人ではない。彼はいつもわたしの気持ちを最優先にして、雰囲気をとても大事にしている。そんな彼が、どうして。
「君の勉強している姿を見てたら、不意にしたくなったんだ」
「ここ、教室だよ」
そう。わたし達は教室にいる。他のクラスメイトはみんな体育でいない。サボっているわけじゃなくて、大事なテストが近いからわたしには体育なんてやってるヒマがないだけ。マツバはわたしに付き合ってくれてるだけだけれど。もしかしたら、誰かが戻ってくるかもしれない。
「大丈夫だよ。一瞬…それも、触れるだけでもいけないかい?」
「そんなに?どうしても今?」
「あぁ。今しないと気が済まない」
こんなに粘るマツバをわたしは初めて見た。マツバは相も変わらず、極めて真面目な表情をしている。少なくとも冗談を言っているわけではないみたいだ。
「お願いだよ」
「…しょうがないなぁ」
いつもの落ち着いた雰囲気とは打って変わって、この時のマツバはまるでお菓子をねだる子供のようで。ゆっくりと目を閉じると、顔が近づいてくるのが気配でわかった。
「…え?」
いつまで経っても唇には何も感じない。その変わり、頬に温もりを感じた。
「口じゃ、ないの…?」
唇にキスをするのかと思って身構えていた自分が恥ずかしい。頬がだんだんと熱を帯びてくる。そんなわたしに彼は優しく、でもどこか悪戯っぽく微笑んだ。
「口がよかったかい?」
「いや別にそういう…んっ」
今度は心の準備もしないまま彼の唇とわたしの唇が重なって、すぐに離れる。それとほぼ同時に、授業の終わりを告げるチャイムが響いた。
一瞬の愛情表現を、二回
三回目は、また後でね
桜餅はいかが
「ナマエは暖かいね」
彼がよく言う言葉。わたしを抱きしめて、わたしの肩に顎を乗せて、わたしのお腹に腕を回して、優しく静かに、呟くように言う。
「マツバも暖かいよ」
「ふふ」
彼は笑って、わたしの頬にちゅっとキスをひとつ落とした。彼が動く度にそのふわふわとした金髪が顔の横に当たってくすぐったい。少しだけ顔の角度を変えると、今度は目尻にキスをされた。
「うん、暖かい」
最後に唇に、優しく触れるだけのキス。
温もりに包まれながらわたしは目を閉じる。直前にちらりと見えた淡い色の桜の花が、春を感じさせた。